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ナショナリズムの顕在化

もくじ

ナショナリズムの顕在化

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米国1国の赤字に依存する経済成長の限界

2008年の米国の金融危機以降、「景気は今後どうなるのか」に注目が集まっている。
2008年の冬ごろは、巨大企業である米ゼネラルモーターズ社が経営破綻するなど、多くの人がまだ半信半疑であったのだが、そこからわずか半年足らずでそれは現実になってしまった。

日本の自動車業界やエレクトロニクス業界では、主要企業が軒並み数千億円規模の赤字を記録している。自動車メーカーや総合エレクトロニクスメーカーといえば、かつては安定企業の代名詞であり、「総崩れ」ともいえる今の状況は過去に例がない。
「まもなく景気の低迷が底を打ち、2009年の冬ごろから徐々に回復してくるのではないか」と期待を込めて予測をした企業は少なくない。
これを後押しするように、日本政府は2009年6月の月例経済報告で、景気の基調判断から「悪化」という表現を削除した。

だが、今起こっていることは単なる「景気サイクル」ではなく、世界経済の「構造的な変化」と捉えるべきではないだろうか。
1年や2年といった短期間で収束するようなものではないかという見方もある。
米国という「世界で唯一の顧客」を失った世界経済は、新たな均衡点を求めて姿を変えつつある。
米国市場の低迷は長く続き、世界経済の混迷はこれから本格化する可能性も高い。
それは「未来予測」の手法で世界を取り巻く環境をいろいろな方向から全体的に構造的な視線で捉えていくことによって、これらのことが見えてくるのである。

下図は世界の経常収支を示したものである。
0より上は国ごとの黒字、0より下は赤字を表している。1990年代前半には、巨額の貿易黒字によって「世界中で儲かっているのは日本だけ」という時代もあった。
1990年代後半に入ると、韓国、台湾、香港、シンガポールといった、いわゆるNIEsと呼ばれる地域が異字を増やしていく。
その後、解放政策へ転じた中国が、そしてオイルマネーによって中東が黒字を増やしていった。
 ここで重要なのは、これらの国の黒字は米国1カ国によってもたらされてきたという現実だ。黒字国はこれまで米国債を引き受けたり、米国への直接投資を行ったりして資金を米国に還流していった。
世界経済の中で米国という国自体がいわば「投資銀行」としての役割を果たしてきたのである。
だが、この資金循環モデルは、米国が世界から借金を続けることを前提として成り立つものであった。
経済は「ゼロサム」であり、誰かが損をした分だけ誰かが得をする仕組みは国際経済においても変わらないのである。

現在の米国は、約2兆米ドルの輸入に対して輸出は約1兆米ドルしかない。
米国は、この赤字を世界中から投資マネーを集めることで穴埋めしてきた。それを表す資本収支は、約0.7兆米ドルと大幅にプラスになっている。
 だが、世界中から投資マネーを集めることにより、米国の赤字を穴埋めしていた投資銀行が、サブプライムローン問題を切っ掛けに、2007年のアメリカの住宅バブル崩壊に端を発した世界金融危機で業界ごと消滅してしまった。「情勢が少し落ち着いてきたら、また元に戻そう」とはいかなくなったのだ。
米国という優良顧客を失って、世界経済は新たな均衡点を探し始めている。以前のように借金で穴埋めできないとすれば、米国経済は今後どうなるのか。これは一般的な家計と同じで、買い物(輸入)を減らし収入(輸出)を増やしていくしかないだろう。
 米ドルがこれまで「基軸通貨」たりえたのは、かつては米国が世界経済の半分を占めており石油や食料、鉱物など何でも買える「万能の通貨」だったからである。 それを担保していたのは米国の圧倒的な軍事力であった。
 そのため、各国は外貨準備として大量の米ドルを保有するようになっていったのである。 このことは米国に大きなメリットをもたらしもした。 プリペイドカードの未使用分のように、料金を前受けしたが実際には使われなかった分は「丸儲け」になる。 それが基軸通貨のうまみであった。

米国はこれまで、潤沢に資金を供給することで経済を成長させてきた。
手元にお金がたくさんあれば、人々は使おうとする。 単純に言えば、米国は経済を2倍に発展させるために、一方では3~4倍もの米ドルを発行してきたのである。
為替相場を動かしているのは短期的には「市場」だが、中長期的には「政策」で決まる。 かつて1米ドル=360円だった米ドルが下がり続けているのも「政策」なのである。

各国はドル安を懸念して米ドル建ての資産を徐々に減らすとともに、国際取引でも米ドル以外の通貨を使う動きが目立ってきた。
例えば中国と日本における取引でも、最近は円や元で支払う取り決めをするなどしている。
米露がこれまで「自由貿易」を推進していたのは、貿易が拡大すれば米ドルの流通量が増え、新たな米ドルを発行することができるためだ。「自由」といえば聞こえがいいが、その裏側にあるのは「弱肉強食」である。
制約を取り払って「自由」に競争すれば、強い米国が最も有利だ。
要するに、「自由」という名前を冠して自国に有利なルールを作っただけに過ぎない。だが「圧倒的に強い」という前提は、今や軍事的にも経済的にも崩れてしまっている。米国は「自由貿易」から、自らを守るために「保護主義」へと180度の方向転換をし始めたのである。

「景気サイクル」ではなく「構造的な変化」

世界経済は、新しい均衡点を求めて構造的に変化している。
米国市場の低迷はとても長引くとみられ、この構造的な変化は1年や2年などの短期間で収束するようなものではないだろう。
今回の世界的な不況は「国際経済の構造変化」に起因するものである。 現在の経済の変化は「経済のサイクル」によってもたらされているものではなく、「景気サイクル」のようにじっと耐えていればやがて回復する、ということにはならないのである。
「構造変化」は、別な表現をすれば、「米国という唯一の買い手がいなくなり、世界経済は新しい均衡点を求めてカタチを変える」ということなのだ。

金融面について言えば、不動産価格の下落が続く限り金融機関での損失処理は終わらない。
米国における不動産ローンは主に「ノンリコース」と呼ばれるものであり、万一返済不能になった場合には対象不動産を手放せば債務から逃れられる。 損失は最終的に金融機関に回る仕組みであり、これは商用不動産も同じである。
不良債権処理はまだ半分程度しか進んでおらず、当面は続くとみるべきだろうが、土地の値段はゼロにはならない。 いずれ地価は下げ止まり、景気が底を打つの間違いない。 
だが商業用不動産を含めて「もう土地を買っても大丈夫」という安心感が広がるには、あと数年はかかるのではないだろうか。 不動産市場が完全に立ち直って再び上昇力ーブを描き始めるのは2~3年程度はかかるものと思われる。

「ドル安」は更に進む可能性がある

最悪の場合、米国は「スタグフレーション」に陥る可能性がある。 これは、物価が上昇しているにもかかわらず所得の方は向上しないという現象である。
 かつて1990年代に米国でスタグフレーションが発生したが、公共投資の拡大でうやむやのうちに解消してしまったため、今でもハツキリした要因は分かっていない。
 米国は日用品や原材料の多くを輸入に頼っている。 ドル安の場合、他国から輸入されるモノの値段は高くなり、より多くの米ドルを支払わなければならない。 一般的な経済モデルでは、物価の上昇は受け取る賃金に反映され、所得も増えていく。
しかし、自由化で極端にグローバル分業化が進んだ経済下では、割高になった輸入品をいくら購入したところで自分自身の給与には反映されない。 原料高に起因する「コスト・プッシュ・インフレ」も同様だ。 売り上げ増や物価上昇は必ずしも賃金アップにつながらない。
このような状態が常態化すると、従来の経済理論はほとんど通用せず、景気回復はさらに長引く可能性もある。 
 今の状況が「構造変化」に起因するものなら、この2~3年で1米ドル70円割れという、もう一段のドル安へと進む可能性もある。
米ドルの過去最安値は1994年の1米ドル=79円であるが、1ドル=70円割れというのはかつて経験がない新しいレベルのドル安時代を迎えるという意味でもある。
これは単に一通貨が下落するということに留まらず、世界経済のパワーバランスが大きく変わるということになるだろう。
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米国には、「ドル安」にせざるを得ないという政策的な事情がある。
バラク・オバマ米国大統領は、雇用の確保と外貨を稼ぐという2つの意味において「製造業」が不可欠と考えている。 金融業を中心に考えれば、投資のために米ドルの価値は高い方が有利になる。だが製造業が中心となると、輸出競争力を高めるためにはドル安の方が有利になるからである。
 金融業は一般に製造業より利益率も高く、法人税だけを考えれば金額も多いかもしれない。だが、例えば自動車を製造する過程では大量の人が必要となる。「色を塗る」「組み立てる」「機械を造る」など様々な生産工程があり、これらは全て雇用につながる。雇用が増えれば家計が豊かになって次の消費へとつながる。 当然ながら所得税も増える。国全体の経済を考えれば、据野が広い製造業は経済的な影響力がとても大きい。
対照的こ、金融は中間のプロセスが薄い。極端に言えば、頭脳明晰な人が何人かいれば金融商品は作れる。
残りは定常業務のスタッフがいればいい。金融業は一握りの飛び抜けた高所得者を生むかもしれないが、それだけでは経済は伸びない。
経済全体を考えれば、年収10億円の人が何人かいるよりも、年収1000万円の国民が数百人いる方がはるかに好ましい。 例えば、冷蔵庫ならお金持ちとはいえ1人で何百台も要らない。経済を持続的に発展させるためには中間層の存在が重要なのである。
 経済の持続的な発展のためにもう一つ大切なのが「安定性」である。5~10年先の将来がある程度見えるからこそ、住宅や自動車のような大きな買い物ができる。安定した仕事が長期にわたって保証されていること、つまり雇用の安定があってこそ、持続的な経済成長が可能になるのだ。そのための方策が「製造業への回帰」であり、競争力を高めるためにはドル安にする必要があるのだ。

ドル安へと向かうと予測する理由はほかにもいくつかある。
一つには「世界的な米ドル離れ」である。これまで米国のドルが機軸通貨でいられたのは、米ドルがあれば何でも買えたからだ。だが、近年はこの前提に綻びが見え始めている。現在の世界最大の石油輸出国はロシアだが、その取引にはルーブルが必要だ。イランは2008年に原油取引における米ドル決済を停止し、ユーロや円建てに変えている。イラクは2000年に石油取引の決済を米ドルからユーロへ切り替えたが、これがイラク戦争のきっかけにもなったといわれている。
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米ドルの先安感こ対する警戒感が高まっており、通貨の多極化に拍車をかけている.
2009年6月、ロシア政府は外貨準備高に占める米ドル資産の比率を引き下げる一方、国際通貨基金(IMF)発行債券の比率を高めることを表明した。 ロシアの外貨準備高(約4000億米ドル)のうち、約3割を米ドルが占めている。
中国もASEANとの取引きで.試験的に元を使い始めた。 中国は世界最大の米ドルの引き受け先であるが、その中国も400億米ドルに上る特別引き出し権(SDR)建てのIMF債の引き受けを表明し、ブラジルやインドもそれぞれ100億米ドルのIMF債の購入を予定している。
ユーロはEU加盟国であるかどうかを問わず広く使われており、年々存在感を増している。
今でも米ドルが最強の通貨であることは変わりはない状況ではあるが、運用手段は他にもいろいろ出てきている。IMFが創設された1970年代とは、情勢は大きく様変わりしているのである。

石油取引などの決済で米ドルが使えなくなると、各国は米ドルに代えて他の通貨による外貨準備を増やすようになる。 それは、一方では米ドル資産を市場に放出することを意味する。
世界の国々は、米ドル資産が目減りすることを恐れて処分したがっており、特に中国は、世界で最も多く米ドル資産を保有する国となっているが、米ドルを大量に放出すると、今度は米ドル安を招いて自らの資産が目滅りすることになる、というジレンマを抱えている。
いずれにしても米ドルが市場にあふれれば価値の下落を招き、それが一気に広がれば暴落しても不思議ではないのである。

もう一つ、米ドル安が進むと見る要因として「通貨の希薄化」が挙げられる。
2008年9月から12月までのたった4カ月間で、米ドルの通貨流通量(M1=現金通貨と預金通貨を合計したもの)は8000億米ドルから1兆6000億米ドルへと実に2倍にも膨らんだ。
米国はものすごい勢いでドル紙幣を増刷し、4カ月足らずで約70兆円ものお金を新たに「創った」のである。
これは2008年後半から保険最大手である米AIG社やビッグ3の経営危機など、相次いでトラブルに見舞われたことが原因だった。 その支援のために米国政府は、100兆円以上もの巨費を注ぎ込み、さらに2009年に入って景気対策として、新たに100兆円規模の財政出動に踏み切った。
だが米国とはいえ、こんな巨額な資金を簡単に捻出できるわけがなく、そのための米ドルの大増刷であり、それを補うための大量の国債発行であった。
米国の財政悪化や国債の大量発行に対して、世界的にも懸念が広がっている。
そのため各国は、外貨準備における米ドル資産の割合を徐々に減らし始めている。
世界の外貨準備のうち約65%が米ドル資産というかたちで保有されている。各国は米ドルが一気に下がることを非常に恐れている。
日本と中国だけで考えても、約200兆円もの米ドル建ての債券や現金がある。 米ドルが1円安くなると、約2兆円の国富が吹き飛ぶことになる。 そのため、より高い金利をつけないと米国債の引き受け手がいなくなっているのである。

だが、国債の金利を上げることは、長期金利の上昇を招く。
これは景気回復の足かせになるとともに、国債の金利負担を増やして財政がより厳しくなるという「悪いスパイラル」に陥る可能性が高くなる。
そこで米国は、金利を上げずに資金の流通iだけを増やすため、中央銀行であるFRB(=自分自身)に国債を引き受けさせるという「禁じ手」をとった。
こんな状況は過去に例がないため、今後経済がどうなるのかは経済学者の間でさえ意見が分かれている。 ただ事実として言えるのは、「4カ月で米ドルの通貨流通量は2倍に増えた」ということであり、常職的に考えれば「通貨が増えれば希薄化して価値は下がる」。 
単純に言えばそういうことである。
 だが、禁じ手は長くは使えない。経済のひずみとなり、そのツケはドル安というかたちになって跳ね返ってくる。
2~3年以内に1米ドル=70円を割り込み、中長期的にもドル安が進んで10年後には1米ドル=50円程度になっていくなどということも現実に起こり得ないとは言えなくなってきている。
今、米ドルの弱体化とともに、米国は「盟主」から「リーダー国の一つ」へと国際的な地位を落とし、世界は本格的な「多様化」を迎えつつある。

米国の信用力にも中国の経済力にも限界がある

米国は、2009年会計年度(2008年10月~2009年9月)でも1.8兆米ドルの赤字を出している。
これは、対GDP比で13%である。さらに2010年度は1.3兆米ドル、2011年度は0.9兆米ドルの財政赤字が見込まれている。 1兆米ドル単位で米国の債券を引き受けられる国は日本と中国しかない。 だが、日本はこのところ貿易黒字の縮小もあって、2006年末の約9000億米ドルから2008年末は約1000億米ドルと、外貨準備は頭打ち気味となっており、米国債の購入も増えていない。
実際のところはほぼ中国頼みとなっているのだが、その中国も米ドル安に対する警戒感を強めている。 米ドルを手放せば価値が急落してしまい、前述したように結果として自らの資産が目滅する、というジレンマを抱えている。
さらに、最大の取引先である米国市場をさらに悪化させ、ひいては自国の輸出産業にも深刻なダメージとなって跳ね返ってくるだろう。
中国は米ドル買いをやめたくてもやめられない「泥沼」の中にいる。 
だが、米国の信用力も中国の経済力も無限ではない。 はじけるのは時間の問題だと思われる。

「貿易立国」のイメージが強い日本だが、対外貿易依存度(貿易が占める割合)はGDP500兆円のうち約2割に過ぎない。
日本はどちらかというと内需主導型の国なのである。 一方、中国経済の貿易依存度は釣6割(2008年)を占めている。輸出先のうち約2割を米国が占めるとみられており、米国市場が低迷するインパクトは日本の比ではない。

FRBは、各分野から「債権」と名の付くものを片っ端から買い上げて資金を供給した。
しかしこれは「米国」という、より大きい信用を担保に債務の大半を括り直したというだけで、本質的には何の解決にもなっていない。
国民全体の「ツケ」にしただけで、借金を返し始めるのはこれからなのだ。
価値が定かではないものをひとまとめにして信用があると見せかける手法は、サブプライムローンと変わらない。
米国という国の借用力も無限ではなく、米国債そのものが劣化を起こして下落(金利高)し、不良債権化する可能性もある。

1米ドルの価値は下がり続けている

過去の為替相場を振り返ってみると、1971年には1米ドル=360円の固定相場だったものが「スミソニアン協定」で同308円へ切り下げられた。
さらに1973年になると変動相場へと移行し、1985年ころまでは200~250円の間で動いてきた。
1990年に入ると米ドルは急落、1993年ころまで130~150円前後で推移した。
1994-1995年にかけてはいったん80~90円台という円高のピークを迎えた後、2008年の前半ぐらいまで10年近く100~120円の間で安定した相場が続いてきた。
大きなトレンドとしては、1米ドルの価値は下がり続けているのである。
1米ドル=360円の時代が再び帰ってくると信じている人はもう誰もいないだろう。
 為替相場は短期的には市場で変動するが、中長期的には「政策的意思」によって決まる。米国という国は、これまで2倍の経済成長に対して4倍も5倍も通貨を発行することで成長を続けてきた。 多少インフレになっても通貨を潤沢に流通させて経済を活性化させたい、という「意思」に基づくものである。
国際取引で使われれば、その一部は「外貨準備」として各国で決済用に手元に置かれる。 その分は使われることなく、いわば「丸儲け」になる。基軸通貨ならではの「うまみ」である。

通貨は流通量が増えるほど、その価値が薄まるのは当然だ。
もし通貨を増やしても単価が下がらないなら、それは「錬金術」である。 わざわざ国民から税金を徴収する必要などない。
2008年9月以降、歴史上になかったようなハイペースで米ドルが増えている。 米国の政策は明らかにドル安に向かって動いている。 
ただこれは「量的緩和」などという理性が働いた政策ではなく、「マネタライゼーション」(資金不足を紙幣の増刷で穴埋めすること)以外に選択肢がなかったという消極的な理由からだと思われる。
 2009年3月に、FRBは3000億米ドルの国債買い入れプログラムを発表した。 だが、そもそも自国の中央銀行がなぜ自国の国債を買うという不可思議なことをするのだろうか。
それは、こうしないと長期金利の上昇を招いてしまうからなのである。
金利が上がると企業は資金を借りにくくなり、住宅ローンを払えずに破綻する人たちもさらに増える。 国債の金利負担も大きくなり、自ら首を絞めることにもなりかねない。 だから、今はなんとしても金利を上げたくない。 
他国やー般国民はもっと高い金利を付けないと国債を買ってくれなくなっているのだが、中央銀行であれば「政策的に」金利を上げずに国債を引き受けさせることができる。
本をただせば、ほかに引き取り手がいないので自らに「借用書」を書いているだけに過ぎないのである。 本来であればもっと金利が高くなっていないとおかしいのだが、それを「反則技」を使って無理やり低く抑えているということである。

「量的緩和」によって金利を上げずに通貨量だけを増やすことは、一見すると素晴しい政策のように思えるのだが、これは金融システムの「抜け穴」を突くことで、目には見えないが金利形成にひずみを生じさせる結果となっている。
経済原理に反するこのような政策は、長くは続けられないであろう。
FRBが米国債を抱え込んで市場に出さなかったとしても、それは決して「なかったこと」にはならないのだ。
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本格的な通貨の多極化が始まる

一方で、実質的に「米ドル基軸通貨体制」は終焉を迎えることになると思われる。
それは米国が他国を圧倒する経済力を誇り、米ドルが一人勝ちだった時代が終わりを告げるということでもある。
「多極化」というのは、別な言い方をすれば絶対的に安定した通貨が存在しない、ということでもある。
結局のところ、外貨準備などでは米ドル、ユーロ、元、ルーブルなどへ分散配分するというかたちにならざるを得ないのではないかとの見方もある。
 そうなると、米ドル、ユーロ、元、ルーブル、中東マネーなど、それぞれ地域毎に経済圏が形成されてくるだろう。
その通貨があれば、何(資源・技術など)を買えるかで使い分ける、という「資源」を目的とした意味が強くなっていく。
IMF-GATT体制は米ドル一極を前提としたものであり、通貨が多極化すると新たな枠組みが必要になる。
EUにおける欧州中央銀行(ECB)のように、それぞれの経済圏で国を超えた中央銀行が必要になると推測される。
普段はあまり意識していないが、EUは「経済ブロック」にほかならない。 資源の囲い込みをきっかけに、EUと似たような地域ブロックが幾つかできるというイメージである。

地域における資源確保や経済の活性化を図るだけではなく、「マネー戦争」に対する防衛手段としても、国を超えた連携が必要になる。
今後は国境を跨いだM&Aや、国境を超えて利益を求めるファンドによって、マネーによる新しいタイプの紛争が勃発する可能性も高い。
年金や保険など、行き場のない巨額マネーが官民を問わず世界に溢れている。
それはやがて、大きな津波のようになって世界を駆けめぐることになる。
SWF(政府系ファンド)では、雇用と法人税を狙って、有力企業を買収して自国への本社移転を狙うケースも出てくるかもしれない。
中には、一国の経済力では対処できないものも出てくるだろう。
マネーはミサイルに匹敵する武器にもなる。

お金とモノという関係でいくと、通貨が不安定になることは、裏返せば「モノが強くなる」ということである。
この場合「モノ」というのは「資源」である。
歴史を振り返ってみると、1971年に「ニクソン・ショック」が起こる以前は「金本位制」、つまり世界の通貨は「金」という資源だったことが思い起こされる。 わずか40年前の出来事である。
今後は「お金を出しても買えない」という場面がいろいろ出てくるかもしれない。 株券や債権と違って、資源は価値がゼロにならない。通貨に対する信用が低下したり、世界が不安定さを増したりするほど、拠り所を「実物」に求める傾向は一層強くなる。
米国の凋落によって、「資源本位制」とも言うべき、「限られた資源こそ最も価値がある」という考え方が支配的になると予測される。
このことは「資源ナショナリズム」(囲い込み)を加速する要因にもなるはずでありる。

1973年に米ドルが変動相場に移行した直後、第1次オイルショックが発生した状況といろいろな点で似ている。
オイルショックの直接のきっかけは、1973年10月に勃発した第4次中東戦争であった。
原油価格の引き上げと減産、イスラエル支緩国への禁輸などを決定したため、多くの国々は経済活動がストップするなど深刻なダメージを受けた。
石油を輸入していた国のほとんどが石油を中東諸国に依存したため、資源国が大きな力を持つようになった。
そして、工業化が急速に進んだことで、エネルギーとして限りある資源の石油を世界が奪い合ったのは必然でもある。
 時代の中心はエレクトロニクスへと移り変わりつつある。 そこで必要とされる資源は主にレアメタルであるが、それは石油よりもさらに偏在し、資源量も限られている。
通貨に対する信用が低下すると、同じようにモノが重視される傾向が強くなるだろう。
「資源ナショナリズム」と共に資金が資源へと流れ込み、将来的には主要資源の価格は高騰する可能性が高いと予測される。

米国の経済を根本的に建て直して復活させるためには、新しい産業の創造が必要であろう。
ブロードバンドや資源問題などの現在の環境や局面に応じた新しいモデルを作っていかなければならない。 しかし、新しい産業の創出はすぐにできるものではなく、何年もの時間を要する。
その一方で、ドル安による物価の上昇は一気にやってくる。 スタグフレーションが現実のものとなった場合、米国経済は「壊れる」。 一時的にどん底まで落ちる可能性さえもある。

「資源国い込み」のためのブロック化

増え続ける人口と経済発展の中で、今後各国の最重要テーマは「将来にわたって食料や資源、エネルギーをどのように安定確保するか」になるであろう。
人口や資源、経済の発展度合いなど、各国が置かれている状況は大きく異なる。
「資源ナショナリズム」の深刻化と共に、それはどのエネルギーを推進するか、環境問題でどのような立場を取るかなど、政治的スタンスの違いが一層明確になってくる。
 資源が豊富に残されている地域は世界でもごく限られている。
代表的なのはアフリカと南米だ。 だが、現在世界中から「フロンティア」として注目されているのは「中央アジア」である。
資源には限りがあるという現実に直面し、各国がこれらの地域を囲い込んで、少しでも多くの利益を確保しようと動くのは避けられないだろう。

地域ごとの結びつきという点では、幾つかのグループが形成されつつある。
まず、欧州は歴史的にアフリカとの結びつきが強い。そして、近年は中東諸国との関係を深めているのも特徴的だ。米国は南米との関係は険悪だが、地政学的に結びついて権益確保に動いている。中国とロシアは上海協力機構(SCO)を構築し「非米」でつながっている。中国にしてみれば、中央アジアはもともと自分の国だと考えている。ロシアにしても、ソ連時代は自分の国だったと認識している。豊富な地下資源が眠る中央アジアを西側から守りたいという点で利害が一放し、軍事的にも経済的にも協力関係を結んでいるのである。
11億人もの人口を抱えるインドは、SCOにオブザーバーとして参加している。必要な資源を確保するためにも、中露との良好な関係を保つ必要があるからだ。
 米国は、石油資源がある中東諸国を支配したいと考えている。しかし、距離の問題で容易に輸送できないことと、反米意識の強まりに危機感を募らせている。むしろ、中東諸国はEUへ積極的に目を向けている。このままでは、中近東における米国の利権が弱まってしまう。そこで米国はウサマ・ビンラデイン容疑者を「口実」にアフガニスタンに派兵し、じっと機をうかがうことにした経緯がある。
表面的には多額の懸賞金をつけるなどして、居場所を突き止めようとしていた。だが、彼が見つかってしまうと、米国がアフガニスタンに軍を置く理由がなくなってしまう。ビンラデイン容疑者が見つからないことこそ米国の国益だったのである。また、アフガニスタンの隣国はイランだ。中東諸国での利権を睨み、イランを牽制している。もし何かあれば即座に軍事行働ができる態勢を整えているのである。

資源ナショナリズムの動きが強まる中で、ロシアの存在感はさらに高まることが予想される。
ロシアは2001年にサウジアラビアを抜いて、原油生産量では世界トップの座についた。 天然ガスも同じく世界一であり、それ以外にも様々な地下資源に恵まれている。
ロシアは資源を武器に、各国との外交交渉でも有利なポジションを築いてくるだろう。
しかし、モスクワ周辺などでは先進国を上回る物価水準になり、地域間格差が一層激しくなるなど新たな社会問題も起こっている。

日本が考えなければならないのは、資源確保はこれほど切迫した課題であり、各国が必死で生き延びようとしていることである。
これからは、世界の人々が求める需要を全ては満たし切れない時代になる。 嫌でも資源には限りがあるという現実に直面する。
その結果、仲間内だけで都合しあうという動きが強まってくるだろう。
資源の囲い込みという点でも、ブロック化は避けられないと考えられる。
かつて日本は中国大陸や南方に資源を求め、その結果として太平洋戦争が始まったという経緯があるが、資源をめぐり、世界は不安定な要因を新たに抱えることになる可能性が高い。
 特に、日本と中国の開係は今後、さらに複雑になっていくであろう。 
中国では、あと20年近く人口増加と経済成長が続くため、より多くの資源やエネルギーが必要になる。
これから日本と中国の間で、資源確保をめぐって対立する場面が増えていく可能性が高い。
だが、日本は軍事的に単独で国を守ることが難しい為、米国がリーダーの一つに過ぎなくなっていても、経済的にも軍事的にも日本は米国との共存共栄を続けていくというスタンスを取らざるを得ない可能性が高い。
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米国によって保たれていた国際秩序が崩れるということは、自由主義=開放路線からの転換にほかならない。
世界は本格的なナショナリズムの時代を迎えている。「ナショナリズム」は様々な局面で表れてくると予想される。
米国の金融危機後、既に国際競争における「身びいき」としてそれは表れ始めており、国内の有力企業を救済するという大義の下、様々な優遇策が打ち出されている。 税金を投入している以上、国内企業を助けるのは当然という今までにない風潮が生まれている。
自由貿易・市場開放という路線から、大胆に数兆円単位の公的資金を投入して、大統領自らが「自国製品を買おう」と訴える今の姿は、180度の方針転換と言えよう。

国内産業の保護を目的とするナショナリズムは、米国に限らない。
日本でも自動車業界を支援するために、実質的には国内メーカーだけを対象とする助成金制度を設けたり、家電業界で「エコポイント」を設けたりした背景には、省エネ技術に強い国内メーカーを保護するという性格が強い。
欧州や中国などでも保護主義的な政策が目立っている。 米国の凋落と共に、この動きは加速してゆくことになるだろう。

もう一つのナショナリズムは、食料、資源、エネルギーをめぐる争奪である。
資源が足りないことが前提になると、国家間のエゴが激しくなってくる。
例えば中国は、レアメタルを中心に重要な鉱物資源の開発、備蓄、輸出について国家管理を強めている。 最近では100%の輸出関税をかけるなどエスカレートしており、欧米がWTOで提訴している。
過去の歴史を見ても、資源争奪から戦争へと発展したケースも多く、大規模戦争の可能性は低いが、紛争やテロなど国際的な緊張が高まることは間違いないだろう。

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